何のタイミングでもないけれど、THEBOOMの歌詞の話をしたい、ご紹介したいわけですよ。
今年何がキてるかっていうと、『過食症の君と拒食症の僕』。
あれが今年ナンバーワンラブソングですね。
もうすでにTHEBOOMは「このバンドでやれることはやった」とのことで解散してしまったのだけれど(こういう感じでちゃんとは裏をとってないことインターネット上にさらっと残すと後に変な流布を生んだりするよね)、私はむしろ解散の頃具合からハマリ度が上がっていて、ある程度聴き熟した今くらいが丁度いい。
何が好きって、やっぱ歌詞。
ジャマイカ由来のリズムが私にハマるのもあるんだけど(スカパラ好きだしそれこそボブマーリーも)、歌詞がなんとも「す、素敵……」となる。
私としては、宮沢さんには本かなんか、そういった文章も書いてほしいですね。
あらゆる文章って、つまり結局最終的に比喩と換喩。暴論ですが。宮沢さんの比喩と換喩を見たいのですよ。
そんな風に強く思わされたキッカケの歌詞があるんですね。勿論それがトップバッターです。
〈歌概要〉とか書いてあるけど、データ的なことじゃなくてあくまで歌詞全体がどんな話してるかっていう概要。
『都市バス』
〈歌概要〉都市バスに乗る歌。世田谷らしい。バスに乗るのは目的地があるというより、逃げ出したくて、でも流浪に身をやつすほどの勇気もなくて。言ってることは概ね後ろ向きで、慰めにバスに乗ってる様子を、メロディーやリズムとしては明るく楽しく賑やかに。悲しみと暗さを明るく賑やかに歌うのはTHEBOOMの基本ですね。感銘を受けたのは二番の出だし。
「人恋しい日はバスに乗り 古本屋の前で下車 他人の心覗きたくて 涙でしわになったページ探す」
素敵じゃないですか?すごくない?そんな表現の仕方があるのかよ、と。
「なんだか寂しくて人肌求めたくなるような気持ち」を「古本屋で涙の痕跡を探す」って歌詞で表してるんですよ。
主題はやっぱりバス(歌概要の通り逃げる勇気もないけど何かは誤魔化したくてバスに揺られていたい)だから、なんならこの部分はその日偶々逃避の動機がこうだったっていうディテールでしかないんだけど。
もう、この歌詞が心に引っかかって以降は、古本屋に行くとしわになったページを探すようになってしまって。
ま、出会えたことはないんだけどね。
『きっと愛してる』
〈歌概要〉分かりやすく好き好きの歌。君が好きだから歌を作ったり似顔絵描いたり。でも、少し自信がないのか、というよりちょっぴり意地っ張りなのか、歌はそのまま君に聞かせはしないで何なら他の子に聞かせちゃうし、似顔絵も君に見せやしないんだけど。どうやら既に想いは通じ合っているよう(そもそも歌を作るためのギターだって君からもらった)なので、分かったうえでやってる駆け引きみたいなものだと思う。
「君の似顔絵描いたら とってもよく似てて 僕に笑い返すから きっと君を愛してる」
これも素敵ですね。
「きっと君を愛してる」、何故なら「描いた君の似顔絵が僕に笑いかけるから」なんですよ。
「きっと」っていうか、自分で言っていることなんだから推定も何もないはずなんですけど、そこは、作った歌も直接聞かしてやんないみたいなひねくれだと思うので。友達伝いに歌のことなんて知られるのも、分かってやっているだろうし。
いやさぁ、「君が僕に微笑む」ってのが大意の歌詞は幾らでもあれど、しかしてそこに、「自分で描いた君の似顔絵が」って挟むのがねぇ……素直じゃなさ、の表れでもある。
なんだろーなぁ、「好きな人の似顔絵を描く」って、キャラのイラストならともかく、現実では中々重めじゃない?もう大好きじゃんお前、って伝わるよね。の割には素直じゃないなぁって思うけど、やはり我々も結局素直に思いを伝えられやしない事ばかりだからさ。
散らかったテーブルの上を新宿の街に例える歌詞も途中にある。「ミッケ!」を連想するね。
『この街のどこかに』
〈歌概要〉タイトルには、歌の中で「君がいてくれる」と続く。ブルーでも憂鬱でも君がいてくれる。2人でいられるなら。そして2人でいられないような世界なら、そんなのは放り出そうという、「2人で居れば」の歌。
「もしも僕を好きと言ってくれたら 世界中の言葉で幸せだぜって叫ぶだろう 2人乗りのバイクにいつか乗ってくれたら 町中の人たちに君を見せびらかそう」
長めになっちった。出だしからの歌詞。一番のAメロ丸々ですね。
「世界中の言葉で幸せと叫ぶ」って愛の告白への最高の返事だな。振る時なら善吉君よろしく切腹がカッコいいですけど、愛を受け入れるときはこれがベストアンサーじゃないですかね。
そして、浮かれ具合のあまりの「浮かれっぷり」が「君を見せびらかす」って、よう伝わってきますね。
これは人によるだろうけど、「こんなに可愛い」って自慢したくなるのは分かり手も多いことでしょう。ほら、彼氏がモテるのは気分が良いわねって女いるじゃないですか。なんか嫌な言い方だなこれ。自分の中にすら留められなくなって膨らむ喜び。
『神様の宝石でできた島』
〈歌概要〉ちょい特殊なので付け加えると、元はTHEBOOMではなく宮沢さん個人と海外の人のコラボ名義曲。タイトルで想像できる感じ、割とストレートな、ふるさと島讃美。歌詞はずっと、下で紹介した感じのとにかく綺麗で宝石のごとくキラキラした感じがメイン。
「さあ泣かないで窓に透ける朝焼けが君の涙に映っては流れ落ちる」
この歌はずっとひたすら綺麗なんですけど、この部分が特にってことでエントリーです。
そして幻想的過ぎないのが良いところですね。現実に普通に有り得るじゃないですか、この情景って。
朝焼けの思い出があれば特攻が乗るので雑に使いやすいキャラ……みたいな?
私としてはこれまでで一番印象的だった日の出、琵琶湖湖畔の日の出を思い出しますわね。
『川の流れは』
〈歌概要〉悲しみを川に流したい、川に溶けてくれはしないけど、実のところ流れてくれるものですらなく、吹きだまっていくけれど。THEBOOMの死が登場しない曲としては大分後ろ向きめかな?川であるなら辿り着くはずの海まで流してほしいと、未練さがあって、そのまま終わる。
「流れてはふきだまるオモチャやクツやカサに 囲まれた寝床で山椒魚は笑う」
ここの手前の歌詞は「悲しみに耐えられず魚はもう目を開けたがらない」って感じなんだけど、山椒魚はどうもそんな空気ではないっぽい。のぼっとした余裕なのか、一歩退いた自虐的な受け入れなのか分からないけど。
山椒魚ってばしかし、魚と比べたらちょっとなんだか……中途半端なモノ、じゃないですか。両生類ヘイトやめろ。そこに意味合いがあるのかな?余裕を持ててしまう、受け入れられてしまう、半端さ。
「山椒魚の寝床」……なんなら、「山椒魚」だけでも、こう、これを受けたら「眠る」ってワード出しちゃいそうになるじゃないですか?でも「笑う」なのが実はテクニカルかもなって思う。
ここもつまりは言い換えで、「どうしようもなく残り続ける悲しみ」を「川に吹きだまるオモチャ達が山椒魚の寝床を囲っている」って喩えていて。うん、やっぱ自虐の笑いかなぁ。
『虹が出たなら』
〈歌概要〉この歌は引用した部分と私の所感がほぼ歌概要になっている。
「僕は何もあげられないから一日中君の顔きれいにみがいてあげる ある朝君が死んでひとりぼっちになっても花のベッドで擦り切れるまで毎日みがいてあげる」
自分の手には何も無くとも、その時にこそ現れる真なる献身が尽くされている様を示す、最大の表現だな、と。
自分の手に何かがあってすらも最早意味がない時に、それでも生まれる行動、無我の行動だと思うんです。
なんだか、こんな奴が居たら、私みたいに捻くれている奴でも(捻くれているを漢字変換する辺りが捻くれている)真っ当に応援してあげたくなっちゃうな……そして、タイトルのように虹が出た時には、七色のまま君の家に持っていくんだそうんです。手伝ってやるよその時は。
この歌はちゃんと悲しい時じゃないと、心中に入ってこないかもしれない。
『過食症の君と拒食症の僕』
〈歌概要〉過食症の君は僕のことをいつか食っちまうだろうから、どうせ食われるならこっちは何も食わず干からびてまずくなってやる、という歌。でも強烈にラブソング。だから実は「僕」はホントは拒食症ではないんです。そんで対抗して拒食症だなんて言ってるくらいだから、君の過食症には悩まされているし、大変さに文句も言っている。でも「好きだというくらい」しかできない無力さの吐露がポロリと三番に出てくる。そして……
「どうせ食われる我が身でも あなたを侮辱する奴は殺して今夜のおかず 地球が割れても夜空が落ちても海が枯れても鋼のコンビさ 過食症の君と拒食症の僕」
と、ラスサビになって終わる。「虹が出たなら」と近しいところがありますね。献身。向こうは純朴そのものなのに対して、こっちはその点、文句も言ってるあたりリアリティがあるかも。
というか向こうの側は要素を削り切ってて具体的なドラマ性はないからね。
過食症って具体的にテーマ置いているから、その分、愛の強調がありますね。「食べる」って行為をテーマにしているくらいだから。王道に、愛の表現の最大の一つ……だし、侮辱する奴は殺してやるのも愛の強調として分かりやすいですね。
歌詞としてはこれだけなんですけど、歌うときはここに繰り返しが入って力が入るんですよね。
その他紹介したい歌は色々あるんですよ……しかし「この部分の歌詞の表現すごない?」って観点だと、私が今知ってる限りじゃこんな感じかな。全体の歌詞の話の流れに良さを感じているものは、そうなると結局全歌詞ただただ引き写しになっちゃうからさ。
たとえば「24時間の旅」はTHEBOOMの中だともしかしたら一番好きかも……自身に重なるところがあるので……だけど、あれはあの二番の出だしの部分を切り抜いて紹介するのは勿体ないんだよな……そこに至るザワザワを味わってほしいから……みたいな。
羅列だけしておくと「24時間の旅」「釣りに行こう」「世界でいちばん美しい島」「帰ろうかな」「きょうきのばらあど」「僕にできるすべて」「憂鬱なファーブル」かな。全体の文意とか、メロディーの気持ちよさで好きなラインですね。
さて、また今度これはブルハかユニコーン辺りでもやりましょう。